東京地方裁判所 昭和35年(ワ)1876号 判決 1961年7月05日
原告 山金皮革有限会社
被告 渡辺勝造
主文
被告は原告に対し、金九二、〇〇〇円および別紙目録記載の金員については同目録記載の日からそれぞれその支払の済むまで年六分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
本判決中原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
原告は、「被告は原告に対し、金一、〇四三、八五五円八〇円およびこれに対する昭和三五年三月六日から支払のすむまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。
原告は牛革の製造販売を目的とする会社であるが被告に対して昭和二七年三月頃から昭和二八年四月頃まで牛革を売掛け、その代金は合計金一、二〇五、八五五円八〇銭に達した。内金三二、〇〇〇円は、毎月一、〇〇〇円宛の月賦で弁済を受け、内金一三〇、〇〇〇円は被告振出しの同額の約束手形を受取つて一応解決したので、こゝに、既に支払われた計一六二、〇〇〇円を差引いた売掛代金残額金一、〇四三、八五五円八〇銭およびこれに対する本件支払命令送達の翌日である昭和三五年三月六日から、その支払の済むまで商事法定利率による年六分の割合の遅延損害金の支払を求めるため本訴におよんだ。
被告訴訟代理人は、答弁並びに抗弁として、
原告の請求原因事実は認める。しかし被告には原告請求の金員を即時支払う義務はない。即ち、
(一) 昭和三二年八月二〇日頃、原被告間に、<1>被告は原告に対し昭和三二年九月一〇日から毎月一、〇〇〇円以上支払うこと、<2>昭和三三年一月以降は毎月金三、〇〇〇円を支払う旨の割賦払の契約が成立した。被告は右約旨に従い昭和三二年九月から毎月金一、〇〇〇円を原告に対して支払つて来たが依然として生計が苦しく、昭和三三年一月になつても毎月金三、〇〇〇円の支払は出来ない状態にあつた。そこで被告は原告代表者に懇請したところ
(二) 原被告間に以前同様引続き毎月金一、〇〇〇円宛持参支払う旨の割賦弁済契約が成立した。爾来被告は原告に対し、右契約に従い一ケ月も欠かさず毎月金一、〇〇〇円を各月の割賦金を指定して支払つて来たもの(但し、昭和三三年一二月、および昭和三四年一二月はそれぞれ金二、〇〇〇円)である。よつて被告は原告に対して原告請求金員の即時支払の義務はない。
原告はこれに対し、答弁並びに再抗弁として次のとおり述べた。
被告の抗弁事実(一)の割賦弁済契約の成立は認める。尤も昭和三二年九月から昭和三五年二月まで被告主張の金員計三二、〇〇〇円を各月の割賦金として受領したことは認めるが、これは先に述べたとおり売掛代金の内金として充当したので、本件の請求金員の中には含まれていない。その余の事実は全て否認する。
原被告間の最終の約束は、昭和三三年一月以降は、被告が原告に対し毎月金三、〇〇〇円ずつ支払うということであつたが、被告は右約旨に応じた支払をしなかつたので、原告は債務不履行を理由に、昭和三五年五月一三日付の書留郵便で前記割賦弁済契約を解除した。よつて被告は原告に対して本件売掛代金を即時に支払う義務がある。
証拠として、原告は、甲第一ないし第五号証を提出し、原告代表者尋問の結果を援用し、乙号各証の成立はいずれも認める、と述べ、
被告訴訟代理人は、乙第一号証、乙第二号証の一、二、乙第三ないし第四号証を提出し、被告本人尋問の結果を援用し、甲第一号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立はいずれも認める、と述べた。
理由
原告が牛革製造販売を目的とする会社であり、被告に対し、昭和二七年三月頃から昭和二八年四月頃まで牛革を売掛け、その代金は合計金一、二〇五、八五五円八〇銭に達したこと、原告は被告から、右売掛代金のうち合計金一六二、〇〇〇円の支払を受け原告の被告に対する売掛代金の残額は金一、〇四三、八五五円八〇銭であること、昭和三二年八月二〇日頃原被告間に右代金支払につき<1>被告は原告に対し、昭和三二年九月一〇日から毎月金一、〇〇〇円以上を支払うこと、<2>昭和三三年一月以降は毎月金三、〇〇〇円を支払うこと、を内容とする割賦払契約が成立し、被告は原告に対し右約旨に基づいて昭和三二年九月から毎月金一、〇〇〇円宛昭和三三年一月以降も引き続き同額の金員(但し、昭和三三年一二月、および昭和三四年一二月には各、金二、〇〇〇円ずつ)を各月の割賦金と指定して支払つて来たこと、そして右支払金額は、昭和三五年二月までで合計金三二、〇〇〇円であり、右金員は、既に原告の売掛代金債権に充当されていることは当事者間に争いのない事実である。
被告は、昭和三三年一月頃、被告の懇請によつて、原被告間に、被告は原告に対し、売掛代金につき引き続き毎月金一、〇〇〇円宛を支払う旨の新たな割賦払の契約が成立したと主張するのであるが、かゝる事実は本件の全証拠によるも到底認定できない。
よつて被告は原告に対し、前記昭和三二年八月二〇日に原被告間に成立した割賦弁済契約に基づき、昭和三三年一月以降は毎月金三、〇〇〇円を支払う義務があるというべきところ、前述のとおり被告は原告に対し、昭和三三年一月以降も原則として毎月金一、〇〇〇円宛しか各月の割賦金として弁済していないので、この点につき被告は当然債務不履行の責を負うものである。
原告は、右被告の割賦弁済契約の債務不履行にもとづき昭和三五年五月一三日付書留郵便で右契約を解除したので、被告は本件売掛代金の即時支払義務を負う旨主張するので、この点につき判断するに、原被告間の割賦弁済契約は、原告が被告に対し期限の利益を与えたものと解すべきであり、従つて特約があれば格別、そうでない限り債務者が期限の利益を失うのは民法第一三七条所定の場合に限られるといわねばならない。すなわち、債権者が既に期限の到来した割賦金の債務不履行を理由として割賦弁済契約を解除し、それによつて後に期限の到来する割賦弁済の利益を失わせることは許されないというべきである。従つて割賦弁済契約に特約の存したことにつき何ら主張立証のない本件では、右契約解除の意思表示の有無につき判断するまでもなく、この点の原告の主張はそれ自体失当である。
結局、被告は原告に対し、本件売掛代金残債務のうち、前記認定の割賦払契約にもとづき、昭和三三年一月以降、本件口頭弁論終結当時既に弁済期の到来した昭和三六年四月分までの四十箇月分、合計金一二〇、〇〇〇円の支払義務があるというべきところそのうち前記のとおり被告は原告に対し、昭和三三年一月から同三五年二月まで計金二八、〇〇〇円を支払いたることは当事者間に争なく、これを前記一二〇、〇〇〇円から差引いた額、金九二、〇〇〇円を支払わねばならず、(尤も成立に争ない乙第二号証の二同第三ないし第四号証によれば被告は昭和三五年三月から九月まで千円宛原告に対し供託した事実は認められるが、前記認定に基き適法なる弁済供託とは認められないから内金として算入しない。)またそれとともに、右債務が商行為によつて生じたものであることは前述の事実によつて明白であるところ、右被告の負担する債務金九二、〇〇〇円の内、金五〇、〇〇〇円については本件支払命令送達の翌日である昭和三五年三月六日すでに弁済期を経過していたことは前掲証拠によつて明らかなので同日から、その他の割賦金については別紙目録記載のとおりそれぞれその弁済期の翌日から、完済に至るまで商事法定利率による年六分の割合の遅延損害金を支払う義務がある。
よつて原告の被告に対する本訴請求は右認定の限度において理由があるものとして、これを認容し、他を棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条を、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 西岡悌次)
別紙目録
内金 五〇、〇〇〇円に対しては 昭和三五年三月六日から
内金 三、〇〇〇〃 〃 昭和三五年三月一一日〃
内金 三、〇〇〇円に対しては 昭和三五年四月一一日から
内金 三、〇〇〇〃 〃 昭和三五年五月一一日〃
内金 三、〇〇〇〃 〃 昭和三五年六月一一日〃
内金 三、〇〇〇〃 〃 昭和三五年七月一一日〃
内金 三、〇〇〇〃 〃 昭和三五年八月一一日〃
内金 三、〇〇〇〃 〃 昭和三五年九月一一日〃
内金 三、〇〇〇〃 〃 昭和三五年一〇月一一日〃
内金 三、〇〇〇〃 〃 昭和三五年一一月一一日〃
内金 三、〇〇〇〃 〃 昭和三五年一二月一一日〃
内金 三、〇〇〇〃 〃 昭和三六年一月一一日〃
内金 三、〇〇〇〃 〃 昭和三六年二月一一日〃
内金 三、〇〇〇〃 〃 昭和三六年三月一一日〃
内金 三、〇〇〇〃 〃 昭和三六年四月一一日〃